心待ちにしていた本がついに出版された。著者の柏木昇先生は、言わずと知れた国際法務界の大家である。弁護士になりたてのころから先生のお書きになったもので勉強し、その後お知り合いになって情報・意見交換をするようになり、さらには先生が座長を務める日本法令外国語訳推進会議にメンバーとして加えていただいた。この小文のミクロな目的は、その学恩に感謝し報いることである。
いかなる専門分野も、後進が先人の成果を再検討しながら少しずつ歩みを進めることにより発展する。本書の真意や含意を理解するヒントになるかもしれない手がかりを、著者の後進であり若い法務・翻訳担当者の先人である者が残す――これが、この小文のマクロな目的である。
本書は、法令や判決文などの法律文書を英訳する場合の考え方について、著者の長年にわたる研究の成果をまとめたものである。テーマは幅広く、法律文書に限らない抽象的な翻訳論から、訳すのが難しい日本語の法律用語の訳し方にまで及ぶが、200ページ弱ときわめてコンパクトで密度が濃いため、理解が難しいところがあるかもしれない。そこで、あくまでも個人的に面白いと思った箇所に限るものではあるが、「見どころ」を説明しようと思う。なお、著者の言葉と私見とを区別するため、著書の言葉はページ数を入れて引用する。また、章名は本書のものをそのまま記載しているが、小項目名は小文独自のものである。
第1章 法律文翻訳の難しさと日本法令翻訳の黎明期の苦労
第1章では、法律文書翻訳についての著者版の「歴史」が語られる。その中にも、翻訳についての深い考察が随所に登場する。